大阪家庭裁判所 昭和49年(家イ)3062号 審判 1975年3月17日
申立人 上馬旬一(仮名)
相手方 上馬清子(仮名)
事件本人 上馬幸雄(仮名)
昭四六・三・一四生
主文
申立人と相手方は離婚する。
双方間の長男幸雄の親権者を相手方と定める。
理由
1 申立人は、「申立人と相手方は離婚する。双方間の長男幸雄の親権者を申立人と定める。」との調停を求め、その実情として、相手方は昭和四七年二月二日子供を置いて家出し、異性関係もあるので本申立てに及んだ、というにある。
2 当裁判所において調停委員会を組織し六回に亘る期日を持つたが、双方間において離婚については異存はないものであるが、双方が長男幸雄の親権者となること強く希望して対立し、調停の成立が困難な状況である。
3 一件記録によると、
(1) 申立人と相手方とは昭和四五年一二月二八日婚姻届を了した夫婦であり、昭和四六年三月一四日長男幸雄を儲け、申立人の肩書住所において家庭生活を営んでいたものであるが、長男出生後間もなく、夫婦仲が円満を欠き、相手方において離婚意思を表面するようになつたが、相手方の両親に叱責されたり等して思いとどまつたかにみえたが、昭和四七年二月二目子供を置いたまま突然家出をし、その直後相手方の両親宅に電話して子供を引取つて世話をしてくれるよう依頼したまま行方不明となつたこと、
(2) 申立人は、相手方の家出に大いに驚き、かつ、困惑し、相手方の行方を捜したが判明せず、調理師の仕事に従事して夜間不在がちであり、男手一つで一歳未満の幸雄を養育することもできなかつたため、取敢えず同月五日頃相手方の両親である徳島県美馬郡○○町居住の村山義政、ハツエ夫婦に養育を託し、同人らに引取られるに至つたが、当時村山方ではタバコの栽培をしていたため夏季には人手がかかり、幸雄の養育に手が回らなくなつたため、申立人が同年七月二八日幸雄を引取り、申立人の両親である埼玉県大宮市○○居住の吉沢彦次郎、クニ夫婦方に連れていつて、同人方で養育されるに至つたこと。
(3) 相手方は、家出後知人宅を転々とし、スナック、洋酒喫茶等に勤務していたが、両親とは音信があり幸雄の状況についても知つていたが、昭和四八年四月頃幸雄の住居登録が相手方両親の下でなされていたため、予防接種等について支障があり、そのために相手方両親の下で予防接種を受けることになつたことを契機に申立人と相手方の間に話合いが持たれ、今一度同居することとなり、同年五月初旬幸雄を申立人の両親から引取つて申立人方において親子三人で同居するに至つたが、相手方において申立人との婚姻生活をやり直す決意に乏しく、二、三日後幸雄を伴つて相手方両親の下でしばらく過したのち、同年六月申立人方に帰つたが、一〇日間位後再度家出し、その際幸雄を相手方の両親の下へ送り届けてくれるようにとの申立人宛の書置を残していつたため、申立人は幸雄を相手方の両親の下へ連れて行き、以後今日に至るまで幸雄は相手方両親の養育を受けているものであること。
(4) 申立人は現在調理師として勤務し、当初相手方との婚姻関係を円満に解決して同居したいという希望を持つていたが、二度に亘る相手方の家出により、離婚を決意するに至つたもので、現在再婚を前提として交際している女性があること、
相手方は洋酒喫茶「○○○○」の責任者として勤務しており、店の客とじつ懇の間柄であり、同人と将来結婚するかは不明であるが、なお交際を継続する意思を有しているものであること、
双方とも幸雄の親権者となつても、自身で養育する能力はなく、それぞれの両親に養育を託さざるを得ない状況であること、
(5) 申立人の父は六六歳で生命保険の外交員として○○生命保険相互会社に勤務し、昨年度金二六〇万円の年収と厚生年金二四万を受給して家計費に充てているものであり、母は六二歳で家事に専念し、双方ともに円満な性格を持ち、常識をわきまえた人柄であり、その住居は農地が若干散在する住宅街にあり、一棟四戸の内の一戸で木造平家建の六畳、四・五畳の二居室に、大学生である三男と三人で居住し、幸雄の引取り養育を強く希望しているものであること、
相手方の父は四九歳で現在六、〇〇〇羽のブロイラー用鶏の飼育と、○○食品株式会社の飼育係として勤務し、相当程度の収入を挙げており、母は四七歳で家事を担当し、民生委員として部落の世話役をし、中学生の二女と相手方の祖母と幸雄の五人家族であり、今後も引続いて幸雄を養育していく強い熱意を持ち、養育の障害となるタバコ栽培をやめて、今後も引続いて幸雄を養育していく態勢を整え、甘やかしすぎることのないようにいさめ合い、幸雄も良くなつき、元気に育つている状況であり、その住居は二〇戸程度の村落にあり、将来学業に就くようになつた場合は格別、現在幸雄が養育される環境として特段の不都合は感ぜられないものであること、
がそれぞれ認められる。
4 以上認定の事実から検討するに、申立人と相手方はいずれも夫婦関係を円満に解決せんとの意欲を失い、別居後約二年も経ち、それぞれが他の者との交際を持ち、離婚を望むに至つては、もはや双方の夫婦関係は完全に破綻しており、唯子供の親権者についてのみの争い故に形式のみの夫婦関係を継続するのは双方にとつてはもとより長男幸雄にとつても好ましい結果をもたらすとは考えられないところであるから、調停を不調として事件を終らせるより、調停に代る審判をするのが相当と考えられるので申立人と相手方を離婚させ、それぞれ新たな人生に向わさせることとする。長男幸雄の親権者の指定については、相手方は従前の経緯からして親権者としての自覚と責任感に乏しいものと断ぜざるを得ないところであり、真実自己の意思によつて親権者となることを希望しているのか疑問を感んぜざるを得ないところであり、一方申立人は親権者としての適格性について疑問をはさむ特段の事由が存するわけではないが、自主性に欠けるところがあり、親権者としての責任と自覚を充分に感じているものともいい難く、相手方両親の下で養育されている幸雄に対して親らしい配慮をしたとの資料も全く存しないところであるが、相手方との比較においては申立人の方に親権者としての適格性を有するものといえる。しかしながら前示の如く、いずれを親権者に指定しても、親権者において監護することは困難であり、それぞれの両親に監護を託さざるを得ない状況であることからすれば、双方の両親の監護能力を検討しなければならないところ、相手方の両親は幸雄を現に養育し、養育の支障となるタバコ栽培をやめて、監護態勢を整え、当面能力上、環境上格別の問題もなく、申立人両親のそれと比しても遜色はなく、幸雄も順調に成長し、健康にも恵まれているところであり、親の無責任の故にあちこちを転々とし、監護者も転々とする状況を余儀なくされた幸雄にとつては、落着いた監護状況こそが現在最も必要なものといわなければならず、現在の監護状況をさらに変更することは幸雄の福祉上耐え難く、さりとて親権者と監護者を分属せしめる措置は妥協的措置にすぎず、弊害のみ多く採り得ないところであることからすれば、幸雄について相手方両親の下での監護養育を継続せしめる措置こそ妥当なものというべく、相手方においては従前の無責任、無自覚な態度に深甚な反省を期待して幸雄の親権者を相手方と定めるのが相当であり、申立人において将来確固として良好な監護態勢が整備されるに至つたならば、その時点における諸状況を考慮して検討されるべきである。
5 よつて、当裁判所は調停委員の意見を聴き、家事審判法二四条により、主文のとおり審判する。
(家事審判官 渡部雄策)